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 TOP » 創作小説 » 罪の街 第五話 日常の終わり




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【アッサム】

僕がレコードショップにやってくると、店長が僕の頭をまた小突いた。

「なんかいいことあったのかボーズ。顔が笑ってるぞ。」

ヘルハウンドの曲が流れる店内で、僕が昨日のイングウェイの生歌を聴いたことを思い出し、モップをかけながらニヤニヤしていたら、>店長に不審な顔をされた。

「なんでもないよ店長、
 それから、昨日はバカなことしてごめんなさい。
 僕今日からまた、店番頑張るから、これからも僕をここで使ってください」


僕は満面の笑顔で言った。

「おうよ。何があったか知らんが、ガキは楽しんでるのが一番だ。
 神妙な顔して人生について悩むのは、大人になってからでも遅くねえしな」


店長がレコードの在庫チェックしながら言った。



「ボーズちょっとこい」

昼休みに店長に呼ばれた。

「どうしたの?」

僕が尋ねると、店長がポケットから年季の入ったペンダントを取り出した。

「これは今朝、露天商がくれるっつうんで、もらってきたもんなんだけどよ
 独り身のオヤジがこんなもん持ってても怖えだろ?
 お前のお袋さんにでも、プレゼントしてやりな」


「えっ」

華のペンダントヘッドの付いた、古いが上品なネックレスを、店長が僕に手渡してきた。

「いいの店長。僕にあげないでこれ売れば、けっこうなお金になるよ」

僕はびっくりして店長に言った。

「アホ!ガキのくせに夢のねえこと言うな!
 やるっつってんだから黙ってもらいやがれ、このボーズが!」


また店長の太い腕でゲンコツされた。



夕方、僕は店長からもらったネックレスを眺めながら 家に続く道を歩いていた。
昨日、イングウェイが言っていた 、親は大切にしろと言う言葉を思い出す。

そうだ、どんなに僕を殴っても、母さんは僕を産んで育ててくれた。

そのお影で、僕はイングウェイの音楽に会えたし、憧れのイングウェイとも話せた。
ぶっきらぼうだけど、気のいい店長とも会えた。ブルータルだけど優しい、保安官のリッチにも会えた。

そう思うと、今まで母さんを心のどこかで恨んでいた気持ちが薄くなった。

ほんとに、ごくたまに、機嫌のいい時の母さんは優しい。柔らかい手で僕を撫でてくれる。僕はその時の母さんは大好きだった。

僕はポケットに入っていた小銭で、雑貨屋から小さな赤いリボンを買った。

それをペンダントに巻き付けて、母さんが、ペンダントをプレゼントした時に喜んでくれる顔を思い浮かべたら、胸が温かい気持ちになった。

カプセルホテルに着いて、家の扉を開けた。

「ただいま」

母さん、いるかな。

僕は母さんの部屋を覗いた。その瞬間、愕然とした。 母さんが血塗れになり、ブラウンの髪の毛を波立たせ 、ベッドの上にうつ伏せになって死んでいた。

僕は握りしめていたペンダントを絨毯の上に落とした。

血を吸った絨毯に、それはポチャンと音を立てて落ちた。 呆然としていると、キッチンの方から物音がした。

振り向いてみると、返り血を真っ赤になるほど浴びた 母さんが、この家によく連れ込んでいる若い男が立っていた。

僕の姿を見るなり、男が狂った笑顔を見せた。

「ごめんな、お前の母さん殺しちゃったよ」

生気の宿らない目で僕を見ながら、淡々と喋る若い男。
僕は頭が真っ白になって動けなかった。

「オレな、キャメロットに一緒に暮らそうって、プロポーズしたんだ。
 で、二人で暮らすにはお前が邪魔だろ?

 だからオレが、キミのこと殺していいかって聞いたら
 この女、逆上して、もう来ないでとかぬかしやがった。

 挙げ句、お前が帰ってこないって、俺を放って家出てこうとしたんだぜ」


男がじりじりと近づいてくる。

「だからオマエも、母さんとこに行けよ。
 今追えば、きっと追いつくぜ」


男はそう言うと、ナタのような包丁を、僕めがけて振り下ろして来た。

僕はとっさに逃げようとしたものの、肩を斬りつけられてしまった。傷口が焼けるように痛い。血が噴きだして、僕の頭は余計に混乱した。キッチンに向かって必死に震える足を動かし、逃げようとしたが、男は刃物を振り回しながら、追いかけてくる。

僕は棚にあった皿や、ティーカップを投げた。それは壁にぶつかって、破片が男の右目に刺さった。

獣のような悲鳴を上げる男。

「痛えなふざけやがって、ちくしょう、ぶっ殺してやるこのガキ!!」

男は金切り声を上げ、右目から血を噴き出しながら、さっきよりも勢いづいて、僕に斬りかかってきた。今度は思い切り背中を切りつけられて、僕は転んで動けなくなった。

途端に涙が出て止まらなくなった。

今日からもっと頑張ろうと思ったのに、母さんと仲直りしようと思ったのに、母さんは殺されて、こんな事で僕は死ぬのか。

そう思ったら、悔しくて涙が止まらなかった。

その時、けたたましい銃声と共に、男が僕の体の上に倒れ込んで来た。その男の体は、穴だらけだった。

部屋の入り口に猟銃を両手に構えた、保安官のリッチがいた。僕は血だらけで、放心したままリッチを見た。

「……この建物から、女性の悲鳴が聞こえたと通報があったんだ
 キミのお母さんだったなんて……なんてこった……」


リッチは、母さんの死体を見るなり、口ごもってしまった。

「アッサム、怪我は大丈夫か。すぐに保安事務所につれてって、手当してやるからな」

リッチは僕を抱え上げると、僕をバイクに乗せて保安所へ向かった。

日は落ちて、またあの青ざめた月が、夜空に顔を出していた。

僕は無意識に涙を流しながら、バイクから落ちないようにリッチのお腹に腕を回して、体に掴まっていた。

保安事務所に付くと、リッチが僕をベッドの上に寝かせた。 リッチは、医療道具を二階から持ってくるからもう少し我慢してくれと言い残し、二階へ走って行った。

ベッドの脇にサイドボードに、昨日、リッチが地下室の扉を開ける時に使っていた鍵が、無造作に置いてあった。

僕はそれを手に取ると、ベッドから起きあがり、フラフラと地下室へと続く階段を降りていった。

重いドクロの扉をやっとのことで空けて、僕はおぼつかない足で、ギルティタウンへ続く回廊を歩いた。

途中で、何も考えられなくなって、目の前が真っ暗になった。

遠くで僕がプレゼントしたペンダントを身につけて 、微笑んでいる母さんが見えた。僕はかすれた声で何か言おうとしたけど、その前に母さんは消えてしまった。  

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