【語り部】
ブルータルシティを知ってるかい。
そこは一時期工業が栄えていたが、廃棄物汚染で使いもんにならなくなっちまった街だ。まっとうな人間はこんな場所、さっさと立ち退くんだが、貧しい者、街の外に出られないスネに傷のある者は、未だその街に留まっている。
街はいつも、陰気でずっしり重たい雲に覆われ、住人は毒素の混じった空気吸って生きてるもんだからみんな青い顔してやがる。
当然、そんな街じゃまともな稼ぎ口なんてない。女は使いもんにならなくなるまで体を売っちまうし、男はあるところから金を強奪してくるとか、そんな調子だ。
そんな乱れまくった風紀なもんで、この街には誰が父親かわからない子供がごまんといる。いや、人の形して生まれてくれば、まだ運がいい方だ。母親になる女が汚染された環境で暮らしてるもんだから、生まれてくる赤ん坊は奇形児である割合が多い。
化けもんのような姿形の赤ん坊が産まれちまった場合、母親はたいてい、スラムに産み捨てるか、その子供を殺してしまう。この街にいる女は、母性本能が欠如してるような奴ばっかりだから、それをなんのためらいもなくやる。
赤ん坊の死体を玄関口に飾ったりだの家畜のエサにしたりだの、クレイジーな真似までしやがる。 ブルータル(残忍な)って名前の通り、残酷な人間ばかりの街だ。

そんな街で、運良く人間の形で産まれた子供がいた。
名はアッサム。アッサムの家庭は 娼婦をやってる母親と、二人きりの母子家庭だった。
母親は酒乱癖はあるものの、この町の女にしては珍しく、子供をまともに育てていた。
まあ時折ムシャクシャして、アッサムを酒瓶でブン殴るってのは日常茶飯事だったが。
二人は潰れた、狭いカプセルホテルで生活していたが、このごろ母親が若い男を頻繁に部屋に連れ込むようになったので、アッサムはだんだん家に帰らなくなった。
客と母親の情事の時に部屋から聞こえてくる、メス豚の悲鳴のような声が耐えられなかったからだ。アッサムはまだ十歳だったが、母親の職については理解していた。それが汚れた仕事だと言うことも分かっていたけれど その稼ぎで喰わせてもらっている以上、文句は言えなかった。

アッサムは家を空けている間、近くのレコードショップで働かせてもらっていた。アッサムは、母親似で、男にしては妙に可愛い顔してやがる。客に評判がいいので、店長は店番と掃除係としてアッサムを雇った。
アッサムは、その職場にあたるレコードショップが好きだった。
そこではアッサムの大好きなメタルバンド『HELL HOUND』の曲が頻繁に流れるからだ。 アッサムは金がないので、レコードなんて買えない。
店内をせっせとモップがけしながら、過激な演奏と何言ってるかわからないボーカルの声に、アッサムは聴き入っている。
「僕は将来イングウェイみたいな、自由でカッコイイ男になるんだ」
アッサムの口ぐせだった。ヘルハウンドのボーカル、イングウェイ・B・コープスは このブルータルシティの出身だ。孤児だったイングウェイはこの街で相当ひどい扱いを受けたらしい。
イングウェイは、スラムの孤児達のリーダーで、酷い扱いを受ける孤児をこの街にいる間、庇いながら生活していた。イングウェイはスラムに捨てられた五体満足の孤児だったが、奇形で産み捨てられたた弟分達は、住人達に嫌煙され家畜のような扱いをされていた。それを毎日見ていたイングウェイはその度、街の大人達に憎しみの目を向けていた。
イングウェイは十五歳の時、音楽の道に進むため、ブルータルシティを出た。
街を出る晩に、弟分の孤児達に理不尽な扱いをした住人達の家の窓ガラスを叩き割り、家主に赤いペンキをぶちまけた。
硝子の割れる音と一緒に、録音した自分の曲を爆音で流し出し、この街の倫理観のない大人への憎しみの歌を大声で歌い出した。
『十年経ったら、オレに家の窓硝子割られて、
顔面にペンキぶちまけられたって、自慢していいぜ。
そして俺の弟分も片っ端から迫害してやったって、紳士淑女に自慢して恥かきな。
お前等のかわりに、俺は歌でこの街を変えてやるよ』
自作の曲を歌い上げるとそう言い残し、愛用していたギターだけを持って、イングウェイはブルータルシティを出て行った。
そして十年後の今、パワーメタルの帝王になって世界中を熱狂させている。
イングウェイは、レコードの売り上げを全て、この街の孤児を救済する為の寄付金に宛てていた。今でも、街にいる孤児の数は相当なものだが、その寄付金のお陰で、その境遇はかなり改善された方だという。
今やこの街で、イングウェイを知らない人間はいない。
当時のイングウェイを知る大人は、『まったく、クレイジーなガキだった』と口をそろえて言う。しかし、過激を愛するイングウェイにとって『クレイジー』は褒め言葉だった。
これは、そんなクレイジーなミュージシャンと、それに憧れる変な子供の話だ。





