第5話 紅の暗殺者

「おいでフィオナ」

 高級娼婦のフィオナは監獄街の管理者とベッドの中で行為に没頭している。管理者は汗に濡れたフィオナを自分の身体に抱え上げ、豊かな乳房を弄びながら言った。

「《《パパ》》の話をきいてくれるかい」

「うん、いいよパパ」

 フィオナは時折嬌声を上げながら、惚けた表情でうなづいた。

「この少女をこの男から取り戻してきて欲しい。APFの人間でありながら背信行為をしたけしからんやつだ。ベッドに連れ込んで、フィオナの好きなことをしてもいいよ」

「そしたらしんじゃう」

「それでいいんだよ」

 フィオナは首をかしげたが、「お仕事……」とつぶやくと頷いていた。

「その仕事が終わったら、お前の《《本当の父親》》に会わせてやろう」

 呼吸もできないほど激しく責められているフィオナの表情が明るくなった。

「本当のパパに?」

 管理者はにやりと笑って続けた。

「いつもフィオナに手紙をよこしてくれる優しい軍人のパパ。フィオナのパパは、実はもうほんの近くにいるんだよ」

「ほんの近くに?」

「そう。でも毎晩こんないけないことをしているフィオナを本物のパパは許してくれるかな?」

「やだ、いじわるいわないでパパ――」

 夜更けまでフィオナと管理者との行為は続く。管理者の机の上には、グレアムとメアリの写真が乗っていた。

 朝、トレイシーとジェットがあくびをしながらバイト先のフルメタルジャケットに
やってくると、そこには見慣れない車椅子の少女がいた。

 年のころはトレイシーより少し下だろうか。腰まである長く美しい黒髪を赤いリボンで結わえ、露出度の高い赤いワンピースを身に纏い、首元には革のチョーカー、耳元にはしずく型の小さなイヤリング、足元は赤いピンヒール。

 褐色のグラマラスな身体とは裏腹に、顔つきが幼い蟲惑的な美少女だった。外に飾られているレプリカのメニュー表をじっと眺めている。

「お客さん? まだちょっと早いよ。5分くらい待てる?」

「フィオナ、アイス食べたい!」

 トレイシーは微笑む。

 店の制服に着替えて戻ってくるうちに五分がたち、店の中にフィオナを案内した。席に着くと、フィオナが無邪気に叫ぶ。

「アイス!」

「了解。ご注文、爆撃アイスですね。承りました」

 トレイシーはそう答えると、爆撃アイスを持って戻ってきた。フィオナは嬉しそうに、爆撃が落ちたような形のアイスを食べている。

「フィオナ、お金ないよ」

「えっ!?」

 トレイシーがアイス代をおごることになった。
 一緒に店の外に出るとフィオナがニコニコしてトレイシーの手を握る。

「トレイシー、好き!アイスありがとう!」

「えっ!? あ、ありがとう……」

「この人知ってる? あとこの子」

 フィオナが二枚の写真を出してトレイシーに尋ねた。

「グレアムとメアリじゃんか。なんか用なの?」

「うん、忘れちゃった。会えば思い出すと思う。フィオナいちどに三つのことしか覚えられないの」

 トレイシーはそれは難儀だなあと思いながら、マッドジョーカー軍曹に断わりを入れ、フィオナをグレアムとメアリの元へ連れて行った。

 APFの事務所にいくと、グレアムは事務仕事、メアリは玄関の掃除をしていた。

「ようグレアム、メアリ。この子フィオナっていうんだけど、二人に用があるみたいだよ」

 トレイシーはそういうと、グレアムは首をかしげた。

「フィオナ? 初対面のはずだけど、僕とメアリになにか用かい?」

「グレアムと、ベッドでフィオナの好きなことしていいって言われたの思い出した!」

 トレイシーが目を丸くして、グレアムを見た。

「へえ。おまえらそういう関係だったんだ。グレアムにこんな可愛い彼女がいたとはね。馴れ馴れしくして悪かったなグレアム。でもお前も人に世話焼きすぎなんだよ。じゃあな!」

「えっ!? ちょっと待てよ、トレイシー!」

 トレイシーは突然機嫌を悪くして、駆け足で店に戻ってしまった。フィオナはそれを不思議そうに見ている。

「あとね、メアリを取り返してこいって」

 フィオナがあどけなくいった言葉に、グレアムが冷徹に反応した。

「――なるほど。APF上層部の刺客のようなものか。メアリを取り返す為に、僕を篭絡して殺せとでもいわれたのかい?」

「むずかしいことわかんない」

 フィオナが無邪気にいったが、グレアムは「メアリを渡すわけにはいかない」と応えた。

「大事な妹だからね」

 フィオナは黙って聞いていたが、車椅子から立ち上がって、グレアムにすらりと長い脚で蹴りを入れようとした。それを右手でガードするグレアム。

「場所を変えようか。僕は今仕事中なんだ。夕方に裏通りから入れる地下劇場がある。そこで待ち合わせようじゃないか。どうせ暗殺者かなにかの類だろう。そこで相手してやるよ」

 グレアムが氷のような目つきでフィオナに言った。

「わかった。フィオナ先にそこにいる。にげないでね」

 フィオナは微笑んで言ったが、目は笑っていなかった。

「それはこっちのセリフだ。どうなっても後悔するなよ」

 夕方、フィオナが廃劇場の観客席に静かに座っていると、薄汚れた舞台の上に一人の男と犬が現れた。

 男が指をパチンと鳴らすと、からくり人形のバヨネット君が上空から鋼糸のあやつり糸にぶら下がって姿を現した。
 傍らにはぬいぐるみのダニエルを抱えたメアリが佇んでいる。

 古いスポットライト、拷問男とバヨネット君を照らす。

「わあ~!」

 観客席に一人だけいるフィオナが拍手を送る。

 フィオナは拍手が終わると共に、車椅子から跳躍した。車椅子に隠し持っていたアサルトライフルを両手に持ち、拷問男に向かって攻撃する。

「やる気まんまんだな!」

 拷問男はバヨネット君を操り、巨大な刃で弾丸を弾きながらフィオナに斬りかかった。腕を負傷したフィオナは傷口の血を口に含むと、血霧のように拷問男の目前に噴出した。

「血中に毒が――!?」

 拷問男がひるんだ瞬間、フィオナが拷問男の唇にキスをした。舌を入れて唾液を流し込む。拷問男の意識が次の瞬間ぐらぐらと酩酊し始めた。

「なるほど、体液に毒が仕込まれてるのか。お前に篭絡されると体液に触れて死ぬってわけだな。暗殺者らしい女だぜ――」

 拷問男が片膝をつくと、メアリがぬいぐるみのダニエルを持ったまま宙に浮く無数の刃を翼のように広げ、フィオナに向かって投擲した。

 フィオナは持っていた銃でそれを弾くが、無数の刃の嵐に囲まれて、体中を負傷し全身から血を流していた。

「その血に触れるなよメアリ。猛毒だ」

 ふらつく意識のなか、拷問男はバヨネット君でフィオナにとどめを刺そうとした。

「なんだ、メアリ。殺すなって――?」

 メアリがフィオナの前に立ちふさがって首を振っている。

 メアリはフィオナの手のひらをとって何か文字をつづっていた。

『おにいちゃんを傷つけないで』

 フィオナは無言でメアリの顔を見つめた。メアリは真剣な目でフィオナを見ている。

「? よくわからんが、メアリのおかげで命拾いしたな。さっさと消えろ」

「……」

 フィオナは無言で拷問男とメアリを見ると、全身の傷を押さえて、よろめく足で立ち上がると車椅子に乗って黙って立ち去っていった。

 フィオナは遠くなる意識のなか、信頼関係について考えていた。

 フィオナは管理者とベッドの中にいた。

 傷ついた身体は手当てされてはいたが、行為の真っ最中で、管理者はフィオナの失敗を感づいているかのようにフィオナの豊満な身体を、汗だくになるまで責めさいなんだ。

「二人を引き離すのは無理。信頼関係がある」

 フィオナは、はあはあと息を荒げながら、拗ねたようにそういった。

「信頼関係……?」

 管理者はフィオナの汗ばんだ豊かな乳房に顔を埋めながら、不快そうに眉をひそめていった。

「――信頼。フィオナとあなたにはないもの。あなたは自分以外が触ると死ぬ毒液をフィオナの身体の中に仕込んだ。フィオナはあなたのおもちゃじゃない!」

 フィオナがそういうと、管理者がフィオナを殴った。

「《《私をパパと呼べといっているだろう!》》 人形が生意気に――本物の父親に会いたくないのか!?」

 フィオナがぽろぽろと涙をこぼした。管理者がフィオナの涙をべろりを舐めると、汗で濡れた身体を羽交い絞めにして、豊かな乳房を指で弄ぶ。

「パパに会いたい――本物のパパに――んんっ」

「どうしたフィオナ、こういうおしおきは大好きだろう?」

 フィオナの悲痛な言葉をかき消すように管理者の舌がフィオナの口に入ってくる。

「次の仕事はな、お前の本当の父親に会わせてやる。お前の本当の父親の、マッド
ジョーカー軍曹を殺すのがお前の仕事だよ」

「マッドジョーカー軍曹――」
 
管理者のフィオナに対する陵辱は夜明けまで続いた。

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