ギルティタウン 

第八話 アッサムの初仕事

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 ボスの屋敷を出てから、イングウェイにジューダスの教会に連れていってもらった。僕が昨日のお礼を言うと、ジューダスは聖書そっくりのスケッチブックを僕にくれた。

「アッサム君、この街で画家になるなら、記念に私の顔も描いてくれませんか」

 ジューダスが笑顔で言った。僕は喜んで、ジューダスの似顔絵を描いた。

「なんか、すげえ悪そうなジューダスだな」

 出来上がった似顔絵を見て、イングウェイが言った。

「いやいや、似てますよアッサム。私の若い頃にそっくりだ」

 ジューダスは僕の描いた絵を思いのほか喜んでくれた。僕は嬉しくて、浮き足だってイングウェイの八百屋に戻った。ふとイングウェイが描いた殺人ウサギの看板に目がいく。『HELL/HOUND』のCDのジャケットやブックレットで何度も目にしたへんてこウサギだった。

「なんでイングウェイは、このへんてこな殺人ウサギの絵を看板とか、CDジャケットの裏によく描ていてるの?」

「オレのミドルネームのBは バニーのBだ。だからウサギだ。ニンジン大好き殺人ウサギが看板の八百屋なんてイカスだろ。へんてことか言うな!」

 イングウェイはへんてこウサギという言葉に憤慨している。

「確かにこのウサギはへたくそだな」

 向かいの肉屋ラウドが、店先にぶら下げた牛肉に正拳突きを放ちながら言った。

「うるせえぞ脳筋野郎!黙って肉叩いてろ!!」

 イングウェイが敵意剥き出しで、ラウドに憎まれ口を叩く。

「昨日はフライドチキンありがとう。すごくおいしかったよ」

 牛肉相手に格闘しているラウドに僕はお礼を言った。

「ゆっくりしていくといい。ここはバカが多いが、意外と住みやすい街だしな」

 黙々と肉を殴りつつけるラウドが、イングウェイを直視しながら言った。

「誰の事言ってんだボケ!」
「自覚はあるようだな。おかしな恰好しやがって」

 イングウェイは、自分の店の不気味なリンゴをラウドに向かって投げつけた。

「よしチビ、お前の初仕事だ。オレの店の看板描かせてやる。上手くできたら金やるよ」
「ほんと!」

 ラウドがイングウェイにぶつけられたリンゴを、片手でぐしゃりと握りつぶしていた。
 僕はそれを見て目を丸くしながら、鉄のボードを仕入れてきて、イングウェイの店の看板作りを始めた。

 ◆

「オオ!いいじゃねえかチビ。この凶暴なウサギ、この店にピッタリだぜ!」

 夕方、完成した僕の描いた看板を見て、イングウェイが感嘆の声を上げてくれた。

「ほんと!?」

「ああ、このドロドロしたところなんか最強だ。明日からこの看板に決まりだな」

 イングウェイは店の売り上げを数える手を止め、数枚紙幣を引き抜いて、僕にくれた。

「こんなにいいの!?」

 僕はびっくりして聞いた。

「たいした額じゃねえよ、オレはこんだけ稼いでるしな。それにお前も、金なかったらこの街で買い物もできねえだろ?この街はめずらしい売りもんが多いんだぜ」

 イングウェイはそう言うと、札束で僕の頬をペチペチ叩いてきた。イングウェイは八百屋で億万長者になれるかもしれない。

「うまいもんだな。うちの看板もお願いしていいか」

 店の外で僕がペンキを片づけていると、肉屋のラウドが身を乗り出して、僕の作った看板を眺めていた。

「うん、いいよ!」

 僕は満面の笑顔で答えた。

「いいやダメだ!肉屋の看板だけはダメだ!」

 イングウェイが店の中から、大声で叫んだ。

「子供かあいつは。アホめ」

 ラウドはそう呟くと、アイツには秘密で頼む、と小声で言い残し、店の奥に入っていった。

 ◆

 夜になって、イングウェイの作った夕飯を食べた。
 イングウェイの料理はなんていうか、ブルータルな味がする。家事は交替制にしようと話し合った。

 ◆

 夜、 僕がベッドを使わせてもらってるので 、イングウェイはソファの上で寝ていた。

「イングウェイ、僕がそっちで寝るよ。居候のくせに、ベッド占領してるみたいで悪いよ」

「オレはこっちの方が好きなんだよ。照明消すぞ」

 イングウェイがあくびをしながら言うと、パチンという音と共に、部屋が暗くなった。

「……」

 僕はなかなか眠れなかった。
 静かになると、母さんが死んだことを思い出してしまう。

「イングウェイ、寝た?」

 僕は暗い部屋の中、独り言のように言った。

「早く寝ろ、チビ」

 イングウェイも独り言のように言った。

「……イングウェイ、ほんとは、人殺しなんてしてないんでしょ」

 僕は消え入りそうな声で言った。

「喋ったのか、あのバカ女」

 舌打ちと一緒に、イングウェイが呟くのが聞こえた。

「イングウェイは、無実なのになんでこの街にいるの?」

 僕は一番気になっていたことを聞いた。

「オレは死刑になって、レベッカのいる地獄に行きたかったのさ」

 僕は、昼間見たビデオで、イングウェイがレベッカの死体の前で泣いているのを思い出していた。

「オレとレベッカは随分前から付き合ってたが、バンド活動に差し障っちゃいけねえと思って、メンバーには秘密にしてた。アーク達が、レベッカに気があるのは薄々気付いてたが気にしてなかった。誰と付き合うかは、レベッカが決めることだと思ってたからな。だからオレはレベッカにプロポーズした。レベッカもそれを受け入れてくれた。四人が死んだ日の前の晩、レベッカがオレの恋人で、今年中に結婚するつもりだって、メンバーの前で初めて言ったんだ。素直に喜んでくれたのはハイドリヒだけだった。アーク兄弟は終始黙りっきりだった。で、次の日、くだらねえ殺し合いでオレだけ残して、みんな死んじまった。オレも一緒に、殺してくれりゃあ良かったんだ」

 イングウェイは吐き捨てるように言った。

「殺人は全部オレがやったことにして、オレは死刑判決を受けた。だからオレも、すぐ死ねると思ってた。けど、政府の連中はこの国には、死刑はないとかぬかしやがった。そしてオレはこの街に連れてこられ、恐ろしいボスに お前は今日から八百屋だと言われなぜか今、野菜を売ってんだ。笑い話だよ。まあ、今更、表の世界に戻りたくもねえしここで歌って稼いだ金は今まで通り、ブルータルシティの孤児に寄付される。なら、どこにいたって俺のやってることは変わらない。だから、歌えなくなるまで野菜でも売りながらここで見たもん全部、歌にしようとか思ってんだけどよ」

 イングウェイがなげやりに笑った。

「でも僕は、イングウェイが生きててくれて、嬉しかった。この街で歌いながら、野菜を売ってるイングウェイもカッコイイよ」

 僕の素直な感想だった。

「ありがとよ。じゃあもう、さっさと寝ろ」

 そう言うと、イングウェイはいびきをかいて寝てしまった。

 ◆

 次の日から、僕は街を散歩しながら似顔絵を描いて、行き交う人々にあげた。 こっそり、肉屋のラウドの店の看板も作った。その事を知ったイングウェイは怒って、三時間僕と口をきいてくれなかった。

 看護婦のアンジェラの似顔絵を描いて、アンジェラにあげたら『アタシはもっと美人よ』と怒られた。でもカーカスは僕の耳元で、そっくりだよと言ってくれた。夜空をへたくそな骨ほうきの運転で、そこら中に追突しながら飛び回っているハロウィンを描いたら 、イングウェイが『最高だな』と褒めてくれた。この街の、ねじれて歪んだ風景を何枚も描いた。イングウェイの八百屋の半分は、僕の絵の展示会になってしまった。


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