ギルティタウン 

第一話 プロローグ

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 ブルータルシティを知ってるかい。

 そこは一時期工業が栄えていたが、化学汚染で廃棄された街だ。真っ当な人間は立ち退き、貧しい者・すねに傷のある者がここに留まる。

街はいつも陰気で重たい雲に覆われていた。癪気を含む灰色の空気は咳止めシロップのようにねっとりしていて、住人は毎日それを吸ってるもんだからどいつも青い顔してやがる。

 ブルータルシティの男は所構わず金品を強奪し、女は梅毒で死ぬまで体を売っちまう。暴徒が溢れ、乱れた風紀の中で親を知らない子供はごまんといる。母親が汚染環境で暮らしてるもんだから、その多くは奇形児だ。 倫理観や良心が抜け落ちた住人達は奇形の赤ん坊が生まれると、スラムに捨てるかその場で殺しちまう。

暴漢除けに赤ん坊の死体を玄関に吊したり挽き潰して家畜に与えるような気違いもいる。ブルータル(残忍)って名前の通り、残酷な人間ばかりの街だ。

 ◆

 そんな街で、運良く人間の形で産まれた子供がいた。名はアッサム。アッサムの家庭は娼婦の母親と二人きりの母子家庭だった。母親は酒乱癖はあるものの、街の女にしては珍しく子供をまともに育てていた。時折、ムシャクシャしてアッサムを酒瓶でブン殴るってのは日常茶飯事だったが。

 二人は潰れたカプセルホテルの一室で生活している。アッサムはこのところ家に寄りつかない。母親の部屋から聞こえてくる声に耐えられなくなってきたからだ。それがなんなのか分かる年になっちまってたのさ。アッサムは十歳だが母親の仕事は理解している。その稼ぎで喰わせてもらっている以上、文句も言えなかった。

 アッサムは家を空けている間、近くのCDショップで働いている。母親似で、男坊主にしちゃ妙に可愛い顔してやがるのがアッサムの取り柄だ。客評判がいいってんで、店長は店番と掃除係としてアッサムを雇った。アッサムはこのしなびた店を気に入っている。大好きなHMバンド《 HELL / HOUND 》の曲が頻繁に流れるからだ。ワゴンフロアにモップをかけながら、アッサムは過激な演奏とボーカルに聴き入った。

「僕もイングウェイみたいな、自由で格好いい大人になるんだ」

 アッサムの口癖だった。ヘルハウンドのボーカル、イングウェイ=B(バニー)=コープスは ブルータルシティの出身で、孤児だったイングウェイは街で相当酷い扱いを受けたらしい。イングウェイはスラムで育ち、孤児達の兄貴分だった。奇形の弟分を庇いながら生活していたが、彼らは大人に嫌煙され家畜のような扱いを受けている。毎日その様子を見ていたイングウェイは、大人達に軽蔑の目を向けていた。

 イングウェイは十五歳の時、ブルータルシティを出た。

弟分を虐め殺した住人の家の窓を叩き割り、用水路から引いたホースで家主に腐った下水を浴びせる。自作の曲を爆音で流し、良心のない大人へ宛てた曲を大声で歌い出した。社宅一帯分やったので、イングウェイは一人一曲、全三十曲をあらかじめ用意していた。住人達の怒声より、イングウェイの声量が勝っていたので誰も止められない。朝方まで騒音は止まなかった。

『十年経ったら、俺にドブ水ぶちまけられたって自慢しろよ。俺の弟分を片っ端からリンチしてやったって、紳士淑女に吹聴して恥かくんだな。お前等のかわりに、俺が歌でブルータルシティを変えてやるぜ』

 曲を歌い上げると、イングウェイは罵声を浴びながらブルータルシティを出て行った。十年後の今、イングウェイはパワーメタルの帝王になり、世界中を熱狂させている。 『ブルータルシティ』というアルバムには、当時大人に浴びせた三十曲が収録してある。《01.ゴア・コーポ407号室の好色ババア》などは表題から陵辱めいているが、恐るべき完成度を誇る。ブルータルシティの住人はこれを聴く度怒り狂うが、アルバムは飛ぶように売れた。イングウェイは売上を全て、街の奇形孤児を救済する寄付金に宛てている。今も街にいる孤児の数は相当なものだが、待遇はかなり改善された方らしい。

 今やこの街でイングウェイを知らない人間はいない。当時のイングウェイを知る大人は『全くクレイジーなガキだった』と誇らしげに言う。イングウェイにとって『クレイジー』は褒め言葉だった。これはそのクレイジーなミュージシャンと、それに憧れる変な子供の話だ。


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