第四話 鋼輔編プロローグ

 水上都市の熱帯夜。王都コロシアム。熱気にあふれる戦場が、今夜は静まり返っている。戦いは行われていた。夜明けまで続く、護龍の王を決める決戦。

 護龍の皇帝である真紅の鎧を纏った重騎士・空皇帝(テオテスカ)に対するは、学生服姿の凛とした青年――刃鋼輔(やいばこうすけ)。空皇帝は巨大な宝剣、ブレードギア・マカナを。鋼輔は大柄の日本刀、ブレード・ギア・倶利伽羅を握っている。

 夜の一刀。空皇帝の一手。張りつめた空気の中、目にも留まらぬ鋭刃の一閃が空を斬る。倶利伽羅が放つ必殺の白刃と打ち合い、打撃のインパクトで火花が散った。

 空皇帝の猛攻を受け、鋼輔は手にした日本刀、倶利伽羅を硬く握り締める。もう一度、己の一撃必殺、無拍の太刀の予備動作に入った。空皇帝の急所を狙い、音速の太刀を繰り出す。無の太刀は光を纏い、明の一刀となる。空皇帝は倶梨伽羅の白刃に向けて、大振りの凄まじい剣戟を放ち、鋼輔の一撃必殺を相殺する。

 拮抗する技量。ぴたりと合った呼吸。互いの剣に込められた無私の心。

 剣の為だけに紡がれる一手。これほどの太刀を振るうのに、相手は一体いかほどの時間をかけ鍛練を積んできたのか。剣戟が続くほど、渾身の一刀をぶつけあうほど、相手の剣と剣に刻んできた己だけの時間を、互いに理解する。命を賭けた斬り合いは、円舞のように延々と続いた。

 鋼輔は空皇帝の剣に、深い夜を見た。夜。鋭い剣戟は夜の如く深い。

 空皇帝は鋼輔の剣に、暁の日を見た。暁。閃乱の一刀は暁の如く眩い。

 お互いに相殺しあう必殺の一刀。

 王都の夜は明けつつあった。暁が夜を追いやり、コロシアムへ朝日が差し込む。夜の騎士、空皇帝の剣の切っ先が鈍る。大振りの宝剣マカナは威力と引き換えに体力を消耗する。一晩中の斬り合いで、重装備の鎧を纏った夜の王は疲弊していた。だが鉄仮面から除く紅い双眸は闘志を失っていない。

 次の一手で決着はつくだろう。一手の先に、立っていた方が護龍の王となる。

 護龍を統べるのは、夜の王か。暁の王か。

 コロシアムの聴衆は静まり返り、新たな王の誕生を決める決戦を見守る。

 鋼輔は護龍の姫であるイシュタムを生贄の責務から開放するために、空皇帝に勝たなくてはならない。だが今は空皇帝との仕合に魅了されているかのように、ただ己が放つ一手に全神経を集中させていた。鋼輔は決意と共に叫ぶ。

「我が蒼刃――倶利伽羅に斬れぬものなし!」

「砕けマカナよ! 紅き断刀の前に――露と散れ!!」

 繰り出される蒼(あお)と紅(あか)の残像――渾身の一閃が火花を散らしてぶつかり合った。

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