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ORIGINAL CONTENTS

連載中の一次創作作品です。

03: ウィツィロトの襲撃

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 不審に思ったジムダルとメイルが、神殿(ジグラッド)から花園に戻ると、花園を形成していた空間が、割れたガラスのように大きく破壊され、欠けている。その側には、真紅の流線的なフォルムを持った巨大な機体が、不気味な重力球を周囲に浮かべて、佇んでいた。

「ジムダル、これはいったい……」

「発見!! 封魔の御子、発見しました、ドラゴ将軍!!」

 割れた空間から、エアバイクに騎乗し、ギアスーツを纏った女斥候が現れ、叫んだ。メイルの側にいるジムダルを見るなり、威嚇のためかジムダルの足下に発砲する。

 ドラゴ将軍と呼ばれた、先頭で軍隊を指揮する男は、猛禽類のような鋭い目つきをしている。赤毛をオールバックに撫でつけ、細かに編んだ長い髪を肩に垂らしており、頬に入れ墨があった。逞しく、屈強な体躯で、独特の威圧感を放ち、軍隊を指揮している。

「動くな! ラガシュの王(ルガル)・ジムダル! 封魔の御子を引き渡せ!」

「メイル。さっきの広間に逃げろ。鍵を掛けて、しばらく出てくるな」

 ジムダルは、メイルに神殿(ジグラッド)の鍵を渡すと、メイルを花園の奥に追いやろうとした。

「どういうことです、ジムダル!? どうするつもりですか!?」

「いいから行け! ――もし儂が戻ってこなかったら、その時は祈れ、指輪とスペリオールラグーンに。――行け!!」

 メイルは、ジムダルに命じられるまま、スペリオールラグーンのいる、神殿(ジグラッド)へと走った。ジムダルのことが、心配で振り返る。辺りは、女斥候の騎乗するエアバイクで包囲されていた。地響きと共に、巨大な黒紫の機械兵がジムダルに迫り、踏み潰そうとしていた。

 ジムダルが、右手に琥珀色の指輪をはめ、ドラゴ将軍に向けて叫ぶ。

「日輪を統べし 太陽の王 我が呼び声に応えよ、シャマシュ! アルム《光閃》!!」

 ジムダルの詠唱と共に、花園に半身を埋めていた、シャマシュの像が輝き、石でできた身体に鋼の色が差してゆく。翼が、大きく開いた。ジムダルは、シャマシュの操縦核《ミッド・ギア》に転送される。シャマシュに絡みついていた、苔や植物は、命を持ったかのようにうねりながら、シャマシュから離れていく。

 シャマシュの動力炉に、古代魔術《エンシェントルーン》のエネルギーが収束し、火の粉にも似た琥珀色の魔力粒子が、周囲に舞った。魔方陣が展開され、花園上空に姿を現した、珀色に輝くシャマシュから、無数の太陽光閃が放たれる。アカーシャの光閃に焼かれ、逃げ惑う兵士達。

「上等だ、ルガル・ジムダル! 我がライドギア・ムスタバルに挑む勇気は褒めてやる。だが、我々の目的は封魔の御子、邪魔立てするなら始末する!」

 ムスタバルと呼ばれた真紅の機体は、衝撃波を纏った拳を突き出し、集中砲火される太陽光線を相殺した。巨体に似合わぬスピードで、シャマシュまで肉迫する。ムスタバルの周囲には重力球が浮き、古代魔術《エンシェントルーン》の重力エネルギーを纏った拳を振りかぶり、シャマシュに重撃を放った。

「冥界より現れし 亡者の重力よ! スクラップにしてくれるわ、ギラム《重撃》!! 封珠の御子も、逃がさん!!」

 シャマシュは、ムスタバルの重撃に光閃で迎撃し、打撃のインパクトで、お互いのライドギアのエネルギー粒子が舞った。ムスタバルは、奥の神殿(ジグラッド)へと逃げるメイルに、エネルギーの重力球を飛ばした。メイルの周囲が、重力を纏った爆発に包まれる。

「なにっ!?」

 花園の植物が、樹木や、草木が、命を持ったようにうねり、攻撃手段となる。花園の樹木が縦横に交差し、ムスタバルの機体に足下から絡みついて、圧迫する。ミシミシと音を立て、樹木の蔓は、ムスタバルを締め上げる。身動きのとれないムスタバル。

「足下を見ないからそうなる。お前の相手は儂だ。この花園では、よそ見をせんほうがいいぞ。メイルは渡さん」

 ジムダルが操るシャマシュが琥珀色の粒子に包まれながら、動けないムスタバルに容赦なくアカーシャの光閃を放つ。

「フン。つまり貴様は、護竜という世界に仇なす反逆者ということだな。あのガキが逃げ込めるような、お花畑の世界など破壊してくれる。あのガキには、護竜のルールで生きてもらうぞ。世界があのガキに求めていることは、人工太陽《ルインファルス》の部品になることだ。より多くの人間を、生贄の責務から救うためにな。そうでなければ、あのガキに生きている価値などない」

「メイルの人生は、メイルのものだ。メイルの命の価値や使い道を、お前たちが決めるな」

「お前らが、お花畑に隠居してた14年の間にも、呪われし太陽へ生贄は何千人も捧げられ続けていた。赤子だったあのガキを差し出してさえいれば、必要のなかった犠牲だ。俺は軍人として市民の生活を守る義務がある、自分の安寧しか考えないガキとジジイの命より、多くの人間を救える手段を選ぶ!!あのガキの幸せが、生贄何千人の命より重いわけがない!!」

「護竜から太陽が失われたことと、呪われし太陽に必要な生贄の問題は、メイルのせいではないだろう。それに、自分の子を守ろうとしたメイルの両親の行動を、誰が責められる。お前は、自分のやろうとしている非道さを、多くのものを救うという大義名分で、正当化しているだけの殺人者だ」

「常に多くのものを救う選択を迫られてきたはずの王だったとは、到底思えんジジイだな。俺はな、多くの命を救うためにやむなく生まれる犠牲に対して、軍人や執政者を殺人者などと罵る偽善者には飽き飽きしているんだ。くそガキとの隠居生活で日和ったか?」

「常に多くのものを、か。自分の大事なものが切り捨てられる側になっても、同じことがいえるか? そうして選択して得てきたものも、わずかな綻びから壊れることもある。おまえもそうならんように気をつけるんだな」

「フン。俺には意気地がないというような口ぶりだがな。もう一対の人工太陽《ルインファルス》の部品は、降魔の御子――俺の息子だ」

 ジムダルは、息を呑んだ。

「あのくそガキと同い年の軍人だが、息子は承諾している。俺はその意志を絶対に無駄にはしない――俺の命を差し出しても、計画は成功させる!! 封魔の御子を引き渡せ!!!」

 ドラゴ将軍の顔から感情は読み取れながったが、言葉には激情が込められていた。

「……なるほど。儂とメイルが許せんはずだな。父親に生贄を望まれ、承諾するなど……不憫だとはおもわなんだか」

 ジムダルが、瞳に憐れみの色を浮かべる。

「黙れ。貴様に俺と息子の何がわかる。感傷に流され多くを犠牲にしてもいいと考える、くそガキの両親にも、貴様にも虫酸が走る。どちらの意思が護竜に残るかは、ライドギアが決める!!」

「……」

 ドラゴ将軍が咆哮し、ムスタバルを駆る。ジムダルが、無言で迎撃する。

「ジムダル……私は……私は……どうしたらいいんですか……?」

 メイルは、二人の会話を訊きながら、スペリオールラグーンのいる、神殿(ジグラッド)に逃げ込み、鍵をかけた。その場にへたり込むメイル。

 目の前にそびえ立つ黄金像、スペリオールラグーンは、何事もなかったかのように、静寂に包まれて、鎮座している。ジムダルは、シャマシュを動かして戦っていたが、花園に侵入してきた軍隊も、シャマシュと同じ――ライドギアと呼ばれる、魔術兵器を使役していた。

 メイルは、全身から恐怖を滲ませながら、神殿(ジグラッド)の外から、大きな音が聞こえるたび、スペリオールラグーンに、祈った。ジムダルが、無事でありますように。ジムダルとの思い出を反復するように、ジムダルと、心の中の黄金の花を思い浮かべる。メイルは震える両手を握って、祈った。

『おい、くそガキ!! そこにいるのはわかっている!』

 拡声器から響いたのは、ムスタバルを使役する、ドラゴ将軍の声だった。びくん、と、身体を震わせるメイル。

『ジジイはやられたぞ、殺して欲しくなくば、出てこい!』

「来るな、メイル!! 祈れ! スペリオールラグーンに!!」

『黙ってろ、死に損ないが! 花園の植物を操る貴様に、本気を出されては危ないところだったが―― 発作かなんだか知らんが、老いとは、残酷なものだな』

「ぐあぁああ!」

 メイルは、身体が引き裂かれそうな心地になりながら、ジムダルの言うとおり、スペリオールラグーンに祈った。ジムダルは、メイルを助ける為に、戦っている。ドラゴ将軍に敗れれば、ジムダルは死んでしまうかもしれない。メイルは、ジムダルの死を思い眠れなくなった夜のことを思い出す。記憶は胸の痛みとなって、メイルの瞳に涙を滲ませた。

 優しかったジムダルが、命をまっとうするのではなく、こんなことで、死んでしまっていいはずがなかった。大事な人を失うのが、とても怖い。ならば、守らなくては。戦わなくては。人の為に戦うことが『黄金の意志』で、ジムダルは、誰の心にも、黄金の意志はあると言った。

「ジムダル――!!!」

 メイルは、いてもたってもいられなくなり、いいつけを破って、神殿(ジグラッド)から飛び出した。

 メイルが見たものは、焼かれ、踏み荒らされた花園。ムスタバルの腕に、宙吊りにされている、シャマシュだった。

「何してるんですかこのロボ!! シャマシュを、ジムダルを離せっ!!」

 メイルは、鋼鉄の巨人であるムスタバルに、生身で体当りした。ムスタバルの身体を殴打する。

「なんだ!? 馬鹿だなこのガキ、生身でムスタバルに手向かうとは」

 ドラゴ将軍の駆るムスタバルが、メイルの腕を引っ張り身体を持ち上げた。

「……ばかもの……祈れと言ったのに……」

「ジジイの始末が先だ、そこで見ていろ!!」

「きゃあっ!!」

 掴み上げたメイルを、地面に向かって投げつけるムスタバル。地面に叩きつけられたメイルは二転三転して動きを止めた。メイルはよろよろと立ち上がる。

 傷ついた身体を引きずって、再び巨大なムスタバルに組み付いた。

「このお!! シャマシュをっ! ジムダルを離せーっ!!」

 ムスタバルを叩く、メイルの拳に血がにじむ。ムスタバルは大きな掌でメイルを薙ぎ払った。

 悲鳴を上げて地面を転がるメイル。ムスタバルは、腕に宙吊りにしたシャマシュの心臓部を、掌で貫いた。掌を引き抜くと、神殿(ジグラッド)にシャマシュを叩きつける。外壁が崩れ、倒れ込んだシャマシュは起き上がってこなかった。召喚が解け、シャマシュの姿は光の粒子となって消えていく。

「ジ、ジムダル!!」

 嫌な予感がした。メイルは傷ついた身体で、崩れた神殿(ジグラッド)まで走る。内部には、崩れて散らばる外壁に埋もれたジムダルがいた。ジムダルは口元から一筋血を流して動かない。

「うそ……!? ジムダル!!」

 ジムダルが、うっすらまぶたを開けた。

「メイル……儂は……もう、お前を守ってはやれない。だから戦うんだ。自分を守るために、スペリオールラグーンで」

 ジムダルは、震える手で頭上に佇む、彫像のスペリオールラグーンを指差した。

「スペリオールラグーンで……? ジムダルの乗っていた、シャマシュのように……?」

 ジムダルは頷いて、続けた。

「……儂は、おまえと暮らせて……幸せだったぞ。それからな、本当のことを言うぞ。お前が会いたがったり寂しがると思って嘘をついたが、お前の両親は、故意にお前に会いたがらなかったわけではない。つらい事情があって、お前を迎えにこれなかっただけだ。だから、両親を憎んではいけないぞ……両親に会えれば、そのことがわかるだろう……」

 メイルは、色濃くなるジムダルの死の気配に押されるように、ポロポロと涙を流して、何度も頷いた。

「ジムダル、私、ジムダルと一緒で幸せでしたよ……」

 メイルが、涙をこらえて、精一杯の笑顔で言った。

「そうか……それは……よかっ……た……」

 ジムダルは、静かにまぶたを閉じた。メイルは堰を切ったように、ジムダルの遺体にしがみついて泣いた。ジムダルの身体からは、ひだまりの匂いがした。花園での暮らしの記憶が蘇り、涙が溢れて止まらない。

 次の瞬間、今までいたはずの花園は光の粒子とともに消えてなくなる。後に残ったのは、薄暗く寂れた神殿(ジグラッド)。大きな街の廃墟に、石の彫像スペリオールラグーンだけが、静かに佇んでいた。

「ジムダルの死で、ジムダルの幽界ノ陣《レグナント》・隠者の花園も、消えたか」

 気づくと、背後にドラゴ将軍が立っていた。訓練された軍人であるためか、気配もなく声をかけてきたので、メイルはびくりと肩を震わせた。いつからいたのだろう。

「シャマシュの魔力エネルギーで作られた結界の中で、今まで、お前達は暮らしていたのだ。ジムダルは、この廃墟と化した街・統都ラガシュの、太陽を司る王(ルガル)だった。民の意思を機械で管理していた、ひどい王だがな。ラガシュは革命で、自由という価値観を持ち込まれて、暴動が起きて滅び、王も死んだと思っていたのだが。お前といたあの花園が、奴にとって最後の王国だったわけだ」

 ドラゴ将軍はメイルの目の前で、ジムダルの遺体から琥珀の指輪を奪おうとしている。

「王の成れの果てが反逆者か。なんの感動も生まれんわ」

 ドラゴ将軍が、不愉快そうに吐き捨てた。

“人の心が、理不尽に傷つけられ、踏みにじられそうになったとき。『人の為に、戦う意志』が黄金なんだ。この黄金の意志は、誰の心の中にもある”

メイルの頭の血が、逆流した。

「よくも――よくもジムダルを――!! ジムダルに触るなぁ――!!」

 メイルの怒りと共に、蒼い魔力粒子が、あたりに舞った。

「お願いです、スペリオールラグーン! 私に力を!! ドラゴ将軍を退けられる力をください!!」

 メイルは、声に出して、祈っていた。

 その瞬間、石だったはずのスペリオールラグーンが黄金に輝き、メイルもまばゆい光に包まれる。メイルの身体が、ライドギアを扱うためのギアスーツを纏っていた。

 気づくとメイルは、スペリオールラグーンの内部に転送されていた。古代魔術を用いた操縦核《ミッド・ギア》。左右に、二つの魔石が鎮座されている。メイルが、それに触れる。操作は感覚的で、魔石と神経が繋がっているかのように、指先の意志通り、スペリオールラグーンの四肢が動く。目の前には、スペリオールラグーンの視界を映し出すアイ・ウィンドウ、戦況を分析するコマンドウィンドウが、立体魔力で浮き上がっている。

「光より生まれ出でし竜よ 我に戦う力を! 黄金の意志 スペリオールラグーン!」

 脳裏に流れるように浮かぶ単語を読み取り、召喚呪文でメイルが命じた。スペリオールラグーンが、雄叫びを上げる。黄金のドラゴンを模した巨躯は勇ましく、動力炉から、魔力のエネルギーが呼応するように全身に循環した。スペリオールラグーンが、飛翔し、蒼い魔力粒子が舞う。

「ヘルダー、ジムダルの心臓をシリンダー化しろ。指輪も、保管しておけ。俺はこれから、封魔の御子の確保を行う。面白いライドギアに乗っているようだからな――」

「ご武運を」

 副官のヘルダーが、一礼して下がった。再び、ムスタバルの中に転送される、ドラゴ将軍。

「フン、何が統都ラガシュの王だ。封魔の御子といえば、きこえはいいが――こんなガキと、お花畑に隠居し、おままごと生活をしていたとはな。王の名が泣く」

 メイルが猛った。

「ジムダルの悪口を言うな――この、人殺し!!!」

 メイルは、スペリオールラグーンの鋭利な爪で、ムスタバルに襲い掛かった。

「いっておくが、ジジイの寿命を縮めたのはお前だぞ。レグナント《幽世ノ陣》は、発現に多大な魔力を必要とする。人間の魔力が生み出されるのは、心臓だ。ジジイの心臓が衰弱していたのは、お前を守るために、シャマシュを通じて『隠者の花園』を14年間に渡り、維持し続けていたからだ。常人ならとっくに心停止している。ジジイは、お前が殺したようなものだ」

「!!!! ……お前が!! ジムダルを殺しておいてッ!!!」

 ムスタバルは、スペリオールラグーンと組み合うと、重力のエネルギーを拳に込め、スペリオールラグーンを押し返した。辺りに浮かんだ重力球を、スペリオールラグーンの至近距離で爆発させる。

「あぁっ!」

 スペリオールラグーンが、爆発によろめく。隙を突くように、ムスタバルが重力を纏った拳で衝撃波を放った。神殿(ジグラッド)の白い煉瓦が、ブロック細工のように破壊され、衝撃波と共に吹き飛んだ。

「重撃《ギラム》! だが、お前は殺さん。 我々の計画に必要な、封魔の御子だからな!!」

 赤い衝撃波がもろに、スペリオールラグーンに衝突した。装甲が破壊される。操縦核《ミッド・ギア》のメイルも、衝撃波のダメージを受けていた。

「お前には特別に、冥府の景色を見せてやろう――」

 メイルの視界が、赤黒い、異様な空間に浸食されていく。漆黒の山脈に、不気味な赤い空。あたりには、不気味な重力球が無数に浮かんでいる。底のない足下には、黒いフードを被った亡者達が、ムスタバルを讃えるように、蠢く。

「冥界より処する重力號《ウンター・ヴェルト・グラビティ》!!」

 古代魔術《エンシェントルーン》のエネルギーを、一極集中させ、空間に仁王立ちするムスタバル。次の瞬間、光速の連続攻撃が、重力球を誘爆しながら、スペリオールラグーンに炸裂した。

 巨大なハンマーのような、重撃連打、身体を巻き込む、重力球による重力爆発。ムスタバルの拳に、巨大な黒いエネルギーが収束する。紫の魔力粒子が舞い、出力を高めていく、重力球――ブラックホールを形成するエネルギーの塊を、重力を込めた渾身の力で、スペリオールラグーンに叩き付けるムスタバル。

「冥府の景色はどうだ――フハハハハ!!!」

 連続攻撃の衝撃で、メイルの視界が反転し、亡者のいる山脈の谷底に落ちる、スペリオールラグーン。操縦核《ミッド・ギア》に、巨大な亡者の手が伸びる。亡者の手に捕まり、メイルはもがいた。ギアスーツも破り取られ、巨大な亡者に、首を絞められる。呼吸ができなくなり、メイルはフードで隠れた、亡者の顔を見上げた。

 不意に、フードがめくれ落ちる。メイルは驚愕して、涙を浮かべた。亡者は、ジムダルの顔をしていたのだ。

「俺の幽界ノ陣《レグナント》に、新たな亡者が加わったな。冥府王ムスタバルを、讃えるがいい、ジムダル」

「御心のままに。――死ね、メイル」

 ジムダルに心臓を貫かれる。激痛が走り、それが幻ではないことを、実感するメイル。ジムダルの手には、メイルの心臓が、生暖かく鼓動していた。

「嘘だぁ――!!」

 スペリオールラグーンは、底なしの亡者の谷を落ち続け、メイルは泣き叫んだまま、意識を失った。メイルが意識を失うと同時に、『幽界ノ陣《レグナント》・冥府王ムスタバル』は砕け、空間の破片となって消えた。メイルは、ラガシュの神殿(ジグラッド)に、生身で投げ出された。

「少々やりすぎたな」

 メイルの心臓を、掌に握っていたのは、ドラゴ将軍だった。生きた心臓が、生暖かく鼓動している。

「ヘルダー。封魔の御子――くそガキを確保したが、負傷させた。飛空挺(シュガルラ)内で、ブロスに治療させろ。死なれてはかなわん。くそガキの指輪も、外して、金庫に保管しておけ」

 ドラゴ将軍は、終わった戦いに興味が失せたと言わんばかりに、傍らに待機していた副官ヘルダーに、メイルの身体をなげやりに預けた。ヘルダーは背の高い、癖毛の美青年だ。気を失っているメイルを無言で見つめている。反逆された怒りが二割、哀れみが三割、確保できた安堵が五割という眼差しだった。

「俺がこの子を説得しましょうか? 人工太陽の部品になるにしても、当人も納得してなったほうがいいでしょうから……」

「説得な。通じると思うか? このくそガキに。死ぬ気で反抗してくるぞ。だが計画に成功しなければ、俺がシリンダー化して、使役している者たちも、浮かばれんからな」

 廃墟と化した、ラガシュの街を一瞥して、ドラゴ将軍がヘルダーに言った。

「はい。計画に成功しなければ浮かばれません。我々の滅びた故郷・戦都エスカデの住民たちも。人工太陽《ルインファルス》の部品になることを承諾した、ドラゴ様のご子息、リュウ少尉の献身も――」

 ヘルダーの双眸には、決意が揺れている。ドラゴは無言でヘルダーに視線を向け、その肩に拳で触れた。

「護竜を、ドラゴ様の手でお守り下さいませ。新たな人工太陽《ルインファルス》を手にとって」

 ドラゴ将軍に深々と頭を垂れるヘルダー。背後にいたオルター部隊も、ドラゴ将軍に向かって敬礼する。

「おう。言われずとも、そのつもりだ」

 メイルはうっすらと取り戻した意識のなか、二人の会話を聞いた。心臓をえぐり取られた激痛と、外の世界の圧力に初めて触れ、優しかったジムダルを思い出し、一筋の涙を流した。

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